公開日: 2020年05月23日
更新日:

遺留分減殺請求が改正されました

民法改正

改正の概要

2018年7月に成立・公布された民法及び家事事件手続法の改正により、相続法の分野が約40年ぶりに大きく変わりました。
例えば、配偶者居住権の明文化、自筆証書遺言の要件の緩和、自筆証書遺言の保管制度の創設、遺産分割前の払戻制度の創設、相続人以外の特別寄与の制度の創設、遺留分減殺請求の改正、相続の効力等に関する改正などです。

上記の内、自筆証書遺言の方式に関する緩和の改正は、2019年1月13日に施行、配偶者の居住権を保護するための改正は、2020年4月1日に施行、自筆証書遺言の保管制度は、2020年7月10日に施行される予定です。

今回のコラムでは、2019年7月1日に施行された遺留分減殺請求の改正について、その概要を触れたいと思います。

遺留分は、相続財産の一定割合について、兄弟姉妹を除く法定相続人(配偶者、子、直系尊属)に取り分が保障される制度です。相続人が両親・祖父母などの直系尊属のみの場合には、相続財産の3分の1、その他の場合は相続財産の2分1が保障されます。

例えば、Aが死亡し、相続人として子BとCの2名のみの場合を想定します。遺言でBが相続財産の全てを遺贈(遺言で、遺産の全部または一部を贈与すること)され、Cに相続分がない場合、遺留分は1/2×1/2=1/4なので、Cは1/4の遺留分を侵害されたことになります。そのため、CはBに対して遺留分を侵害されたと主張して、Bに遺留分侵害額請求をすることができます。

こちらもご覧ください
【参考コラム】遺留分を侵害された場合の対処法は?

旧法における遺留分減殺請求

旧法では、遺留分減殺請求権を行使することにより、生前贈与や遺贈の対象となる財産が共有関係になっていました。先ほどの例で相続財産として不動産がある場合について申しますと、CがBに対し遺留分減殺請求を行った場合、相続財産の不動産は、当然にBとCの共有状態になり、Bが3/4、Cが1/4の持分を有することになります。

しかしながら、BとCが円満な仲であった場合はともかく、そうでない場合には、不動産が共住状態になった場合、他人に処分するにも、賃貸するにも、円滑に進まない恐れがあります。また、事業承継により、会社の後継者になった相続人が、生前贈与や遺贈により、前経営者から会社の株式等を承継した場合であっても、遺留分減殺請求により、会社の株式等が後継者ではない他の相続人との間で共有状態になり、円滑な事業承継を阻害するとの問題点がありました。

新法での遺留分侵害額請求

新法では、遺留分減殺請求は、金銭債権に一本化され、名称も遺留分侵害額請求になりました。すなわち、遺留分を侵害された他の相続人は、遺留分侵害額請求を行っても、遺贈または生前贈与を受けた財産は共有状態にはならず、その財産に相当する金銭を請求できるのみとなりました。なお、遺留分侵害額請求を受けた相続人は、例えば、相続財産が主に同族会社の株式が大半の場合等には、株式を換価して金銭の支払いを直ちにできない場合もありますので、裁判所は、一定期間その支払いを猶予することができるようになりました

生前贈与があった場合の遺留分侵害額請求

旧法では、相続人以外の第三者に対する生前贈与については、相続開始1年前からの財産に限定して遺留分算定の基礎となる財産に含めていましたが、相続人に対する生前贈与については、期間の限定がなく、過去に行われた生前贈与が全て遺留分減殺請求の対象になっていました。

しかしながら、これでは、例えば15年前の生前贈与も遺留分減殺請求の対象になり、法的な安定性を害する恐れがありました。

そのため、新法では、相続人以外の第三者に対する生前贈与については、旧法と同様に相続開始1年前からの生前贈与に限定されますが、相続人に対する生前贈与についても、期間が限定され、具体的には、相続開始10年前からの生前贈与に限定されることになりました。従って、事業承継対策として、会社の株式を相続開始10年より前に承継者に生前贈与をすることにより、遺留分侵害額請求を回避することも考えられます。ただし、他の相続人の遺留分を侵害する意図で行われた生前贈与は、仮に相続開始前10年より前の生前贈与であっても、従来通り、遺留分侵害額請求の対象になる可能性がありますので、注意が必要です。?

遺留分侵害額請求は早期に行う必要があります

遺留分制度の改正として、遺留分侵害額請求の算定方法についての改正がなされていますが、少々話が複雑になりますので、このコラムでは割愛させていただきます。

なお、遺留分侵害額請求は、相続の開始及び減殺するべき贈与・遺贈を知ったときから1年間で時効消滅しますので(但し、相続の開始等を知らなかった場合は相続開始から10年)、権利行使をする必要がある場合には、お早めに弁護士へご相談ください。

なお、法務省のHPでも、相続法の改正が説明されていますのでご参照ください(http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00222.html)。

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