遺留分減殺請求が改正されました
改正の概要 2018年7月に成立・公布された民法及び家事事件手続法の改正により、相続法の分野が約40年ぶりに大きく変…[続きを読む]
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本コラムでは、
などについてご説明いたします。
目次
遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人に保障された最低限の遺産の取得分のことをいいます。
遺留分に満たない財産しか相続できなかった者は、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを、他の相続人(遺留分を侵害する相続を受けた人)に請求できます。
しかし、遺留分の侵害があった場合に注意したいのが、遺留分侵害額を請求できる期限があることです。
ちなみに、民法改正があった2019年7月1日以降に亡くなった方の相続については、遺留分侵害額請求、同年6月30日までに亡くなった方の相続については遺留分減殺請求をすることになりますが、遺留分減殺請求権も同様に期限があります。
前述のとおり、遺留分侵害額請求には期間制限があり、相続開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間で時効消滅し、相続開始から10年間で消滅します(民法1048条)
上記1年間の消滅時効は、①相続の開始(=被相続人の死亡)と②遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年で時効になります。
1年の消滅時効の計算は①②が揃った時点から始まり、これを時効の「起算点」といいます。
ただし、消滅時効は上記①②が揃えば直ちに確定的に効果が発生するわけではありません。遺留分侵害を請求される人が消滅時効を援用しなければ、遺留分侵害額を請求できます。
ちなみに、時効の援用とは、時効の効果を確定的に発生させる意思表示です。時効は「時効を援用する」と遺留分を侵害請求される側が意思表示をしなければ、裁判所から時効消滅していないものとして判断されます。
遺留分侵害額請求権は、相続開始の時から10年経過した時も、請求権が消滅します。この期限は「除斥期間」と呼ばれ、消滅時効とは異なり、遺留分侵害額請求をされる側が消滅時効を援用しなくても、自動的に消滅します。
注意したいのが、上記2つとは異なり、遺留分を請求した後にも時効があることです。
遺留分侵害額請求権は金銭による返還が原則ですので、遺留分を請求すると通常の金銭債権と同じになり、金銭債権と同様の消滅時効が適用されます。
まず、2020年3月31日以前に行使した遺留分侵害額請求権については、消滅時効期間は10年となります。
次に、2020年4月1日以降に行使した遺留分侵害額請求権については、消滅時効期間は5年となります。
このように、遺留分の時効についてはその起算点や時効にかかるまでの期間の考え方が複雑ですので、弁護士に確認すると良いでしょう。
遺留分侵害額請求権は、①相続の開始(=被相続人の死亡)と②遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年で時効になり、相続人及び相続財産の調査をしていると、期限に間に合わない場合があります。
そこで、正確な請求金額を算出できない場合であっても、まずは時効が完成する前に、遺留分を侵害する贈与又は遺贈を受けた相手方に対し、遺留分侵害額請求権を行使しておく必要があります。
遺留分侵害額請求権は、権利を行使さえすれば1年の消滅時効が完成しないからです。ただし、遺留分侵害額請求を行使した後は、通常の金銭債権と同様、原則5年の消滅時効に服することになりますので、権利を行使したからといって無制限に放置しておくわけにはいきません。
遺留分侵害額請求の行使は、相手方が受領したことを後に証明できるようにするために、配達証明付き内容証明郵便を利用することが通常です。
このように、遺留分侵害額請求をする時は具体的な金額を決める必要はないため、とにかく時効完成までに権利行使が間に合うよう注意する必要があります。
上記のとおり、遺留分侵害額請求を内容証明郵便でした後は、相手方と交渉して遺留分侵害額の支払いを求めることになります。
相手方と交渉の上、合意が成立し相手方が任意に支払いをすれば問題はないのですが、合意が成立しない場合は、家庭裁判所に調停を申し立てることになります。
なお、調停を申立しても相手方との間で合意が成立しない場合は、地方裁判所又は簡易裁判所に訴訟を提起して解決を図ることになります。
また、未分割の遺産がある場合には、遺産分割協議を並行して行う必要があります。
遺留分の争いは、その原因である贈与や遺贈の効力を同時に争っていることが少なくありません。例えば、被相続人に遺言能力がないにもかかわらず遺言書が作成されたり、被相続人が意思表示できない状態で生前贈与がなされたりしていた事例が典型的な例かと思われます。
このように、遺贈や贈与の無効を信じて争っている場合には、時効の起算点の1つである「②遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時」には当たらず、消滅時効にかからない場合もあり得ますが、事情次第ではこれにあたる場合もあります(最判昭和57年11月12日、ただし民法改正前の遺留分減殺請求権に関する事例の判例です)。
ここでいう「事情」は、例えば、被相続人の財産のほとんど全てが贈与されたことを認識している場合などがこれにあたります。裁判所は、財産のほとんど全部が贈与されたことを認識していたときは、その贈与により遺留分侵害請求できるものと知っていたと推認できると判断しているのです。
したがって、基本的には遺贈や贈与の効力を争っている場合であっても、念のため遺留分侵害額請求については権利行使をし、消滅時効にかからないようにしておくべきかと存じます。
民法が改正される前に、「遺留分減殺請求」がなされ、土地の生前贈与を受けた受贈者が土地の時効取得を主張した事例があります。これについて最高裁判所は、生前贈与の目的物を時効取得したとしても、遺留分減殺請求の権利は妨げられないと判事しました(最判平成11年6月24日)。
従って、民法改正前の「遺留分減殺請求」では、遺留分を侵害する限度で、生前財産の効力を失うことになっていましたので、時効取得した土地についても、遺留分を侵害する限度で、時効取得の効力を失うことになります。
これに対して、民法改正後の「遺留分侵害額請求」は、遺留分相当の金銭による支払いを請求するため、例えば、前述の時効取得した土地の場合には、時効取得の効力は失いはません。
例えば、判断能力に疑いがある被相続人が残した遺言に財産すべてを特定の相続人に相続させるといった記載があると、遺言は無効だと争いになる可能性があります。
もっとも、遺言が無効であれば、遺留分も侵害されていないことになり、遺留分の請求は矛盾することになります。
しかし、遺言により遺留分が侵害されている場合には、遺言無効確認訴訟と同時に遺留分侵害額請求も検討するべきであると考えます。遺言無効確認訴訟には、遺留分の時効を止める効果がないため、訴訟に敗訴して遺留分の時効が完成してしまうと、遺留分権者は何も得ることができなくなってしまうからです。
時効は、権利行使をする側にとっては、その権利が正当であっても権利行使ができなくなるリスクがあります。遺留分についても例外ではなく、請求する場合は十分に注意し、迅速な対応をとるべきであると思われます。
特に遺留分侵害額請求は、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年で時効にかかり、短期間に権利行使をする必要があります。
遺留分侵害額請求の権利行使や、その後の相手方の対応でお困りの場合は、あたらし法律事務所へご相談いただければ幸いです。
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