
会社の経営者の方の中には、以下のような理由から会社の解散を検討している方もいるかもしれません。
- 会社の業績が悪化していて回復の見込みが低い
- 経営者が高齢で後継者がいない
- 法人から個人事業主に転換して経営していきたい
このような事情がある場合には、株主総会の特別決議により会社の解散を行うことができますが、役員借入金などの負債・債務がある場合には、それを処理しなければ会社を消滅させることはできません。
役員借入金の金額によって具体的な清算手続きが変わってきますので、しっかりと理解しておくことが大切です。
今回は、役員借入金がある場合の解散・清算手続きと、役員借入金を処理する方法について解説します。
目次
1.会社の「解散」と「清算」の違い
そもそも会社の「解散」と「清算」は、どのような違いがあるのでしょうか。
1-1.会社の解散とは?
会社の解散とは、会社の事業活動をやめて、会社を消滅させる状態に入ることをいいます。
会社法では、以下の事由を株式会社の解散事由として定めています(会社法471条)。
- 定款で定めた存続期間の満了
- 定款で定めた解散の事由の発生
- 株主総会の決議
- 合併
- 破産手続き開始の決定
- 休眠会社のみなし解散
ただし、合併や破産など特別な場合を除いて、解散だけでは会社の法人格は消滅しません。その後、次に説明する清算が必要となります。
2-2.会社の清算とは
会社の清算とは、会社の解散後に残った財産や負債などを整理し、会社の法人格を消滅させるための手続きです。
株式会社の清算手続きには、会社の資産・負債状況によって、以下の2つの方法があります。
- 通常清算:会社の資産で残った債務をすべて返済できる場合の清算手続き
- 特別清算:会社の資産ではすべての債務を返済できない場合(債務超過)の清算手続き
すなわち、会社は、解散後に清算手続きを行うことにより、法人格を消滅させることができるのです。
2.会社の解散・清算と役員借入金の関係
役員借入金とは、「会社の役員が個人で有する資産を会社に対して貸し付けたお金」のことをいいます。会社にとっては「負債」とみなされ、決算書では短期借入金として計上されます。
このような役員借入金は、主に、以下のような理由で発生します。
- 会社の開業資金が不足している
- 会社の資金繰りが難しい
- 役員による会社経費の立替払い
- 役員給与の未払い金が借入金に転化
このような役員借入金は、中小企業や家族経営の企業では比較的多く利用されていますので、会社の解散・清算時に役員借入金が残っているというケースも少なくありません。
しかし、役員借入金は会社にとっては負債に該当しますので、金融機関などからの借入金と同様にそれを残したままでは法人格を消滅させることができません。
そのため、会社の解散時に役員借入金が残っている場合には、清算手続きの中で役員借入金を処理していかなければなりません。
3.役員借入金を処理する3つの方法
役員借入金を処理する方法としては、主に以下の3つの方法が考えられます。
3-1.会社の解散・清算時までに都度返済する
役員借入金は、返済期限や利息などの設定を柔軟に行うことができるため、返済を後回しにしがちな債務といえます。
しかし、役員借入金も会社にとっては負債であることに変わりありませんので、普段から役員借入金の残高をチェックしつつ、会社資金に余裕があるときはその都度返済していくようにしましょう。
3-2.債権放棄・債務免除をする
役員借入金の返済をするためには、会社資金に余裕がなければいけませんので、債務超過の状態にあるなど会社資金に余裕がない状態では、役員借入金の返済をすることができません。そのような場合は、債権放棄・債務免除の方法を検討してみるとよいでしょう。
債権放棄とは、債権者が債務者に対して、債務の全部または一部を免除する行為をいいます。
他方、債務免除は、債権放棄を債務者の側から見た名称ですので、基本的には両者は同じ行為を指す言葉になります。
債権放棄・債務免除を行うためには、会社と役員の双方の合意が必要になります。しかし、債務超過にある会社からは役員借入金の返済は期待できませんので、債権者である役員からの同意は得られやすいでしょう。
3-3.代物弁済をする
代物弁済とは、債権者が債務者の同意を得た上で、本来の給付に代えて別の給付をすることで債務を消滅させる契約です。
会社に十分な現金や預貯金などがなく、金銭により役員借入金の返済をすることが難しいときでも、不動産、有価証券、自動車などその他の資産がある場合には、代物弁済により役員借入金を返済することができます。
4.役員借入金を処理する際の注意点
役員借入金を処理する際には、以下の点に注意が必要です。
4-1.債務免除益による法人税の増加
役員借入金を債権放棄・債務免除により処理すると、役員借入金という負債が消滅する代わりに、「債務免除益」という利益が発生します。
債務免除益は法人税の課税対象となりますので、高額な役員借入金の債権放棄・債務免除をすると、法人税が増加し、会社の負担が大きくなるリスクがあります。
もっとも、債務免除益は税務上の赤字(繰越欠損金)と相殺することができますので、会社の赤字の範囲内で役員借入金の債権放棄・債務免除をすることで、法人税を抑えることが可能です。
ただし、赤字は繰り越せる期間が決まっていますので、役員借入金の債権放棄・免除を行う場合には計画的に行うことが重要です。
4-2.債務免除によるみなし贈与
役員借入金の債権放棄・債務免除を行い、繰越欠損金との相殺をした結果、繰越欠損金を上回る利益が出てしまった場合には、純資産の増加により株式の価値が増加します。
会社にお金を貸していたのが代表者であり、かつ代表者が会社株式の100%を所有していればよいですが、代表者以外にも株式を保有している人がいた場合、株式の価値の増加が「みなし贈与」として贈与税の課税対象になる可能性があります。
このように役員借入金の債権放棄・債務免除を行う場合には、法人税や贈与税などの負担が生じる可能性がある点に注意が必要です。
5.まとめ
社長が会社にお金を貸し付けている場合、会社にとっては役員借入金という債務があることになります。
会社を解散する場合、債務が残った状態では法人格を消滅させることができませんので、清算手続きにおいて役員借入金を処理していかなければなりません。
債務超過の状態で会社を解散する場合、役員借入金の返済は困難ですので、債権放棄・債務免除という方法がとられるケースが多いです。
その際には、債務免除益による法人税や贈与税の負担が生じる可能性があることに留意しましょう。
会社の解散や清算、破産などの手続きにおいては、弁護士によるサポートが大いに役立ちます。
お困りのことがありましたら、企業法務・経営に詳しい、あたらし法律事務所の弁護士にぜひ一度ご相談ください。