2024年1月30日、法制審議会は、離婚後の共同親権の導入に向けた民法改正の要綱案の取りまとめを行いました。
そして、共同親権を導入する民法の改正案が、2024年5月17日の参院本会議で可決・成立しました(施行は公布から2年以内)。
現行法では、離婚後の親権は、父または母のどちらか一方を指定するという「単独親権」に限られていますが、改正案では、現行法の「単独親権」に加えて「共同親権」も選択できる形になっています。
このような共同親権が導入された場合、どのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。
今回は、今後施行される予定の共同親権の内容とそのメリット・デメリットについてわかりやすく解説します。
目次
1.共同親権とは?メリット・デメリット
共同親権とはどのような制度なのでしょうか。
また、共同親権が導入されるとどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
1−1.共同親権はどのような制度?
「共同親権」とは、未成年の子どもについて父と母の双方が共同して親権を行使する制度です。
現在の日本の法制度では、婚姻中の父母に関しては共同親権が認められていますが、離婚後は父または母のどちらか一方を親権者に指定しなければなりません。このような制度を「単独親権」といいます。
2026年までに日本で導入予定なのは、離婚後も父と母の双方が子どもの親権を持つという意味での共同親権です。
父母間の協議で合意がない場合、家裁の判断で共同親権とするか単独親権とするかが決められます。
共同親権になると、子どもの進学(学校の選択)や転居などについて父母が話し合い決める必要が生じます。
しかし、共同親権下でも、身の回りの世話や習い事などの「日常の行為」や、緊急の手術などの「急迫の事情がある」場合には、どちらか一方の親が親権を単独で行使できるとされます。
1−2.共同親権のメリットとデメリット
①共同親権のメリット
共同親権が導入された場合には、以下のようなメリットがあります。
離婚時の親権争いを回避できる
現行法では、離婚時に父または母のどちらか一方を親権者に指定しなければなりません。父と母の双方が子どもの親権を希望する場合、話し合いや調停では解決できず、離婚訴訟にまで発展することも珍しくありません。
このような場合、親権者の争いを解決するまで長期間を要しますので、子どもの精神的負担も大きくなります。
共同親権が導入されれば、このような親権争いが少なくなりますので、離婚問題の主要な争点が親権者の争いである場合には、早期に解決することが可能になります。
離婚後も協力して子育てができる
共同親権では、離婚後も父と母の双方が子どもを育てる義務と責任を有しています。そのため、離婚後もお互いに協力して子育てを行うことができますので、どちらか一方に負担が偏ることはありません。
また、子どもと別々に暮らす非監護親であっても、定期的に子どもに関わることができますので、離婚後の面会交流に関するトラブルも少なくなるでしょう。
面会がスムーズに行われれば、子どものストレスも軽減されます。
なお、養育費については共同親権下においても変わらず支払う義務が生じます。
共同親権があれば子の養育責任に現実味が出るため、養育費の未払いについても減るのではないかと期待されています。
②共同親権のデメリット・問題点
日本では、共同親権の反対意見も多くあり、制度の導入がなかなか進みませんでした。
これは、以下のようなデメリットが考えられるからです。
両親の教育方針が対立し、意思決定が難航する
単独親権では、子どもの教育に関する事項について親権者がすべて単独で決めることができますので、スムーズな意思決定が可能です。
しかし、共同親権では父と母の双方に親権がありますので、常にお互いが話し合って決めていかなければなりません。
従って、教育方針で対立が生じた場合には、スムーズな意思決定ができず、子どもに対して不利益が生じるおそれがあります。
DVやモラハラから逃れられない
単独親権であれば、離婚をすればDVやモラハラをしていた配偶者から逃れることが可能です。
しかし、共同親権だと離婚後もDVやモラハラをしていた配偶者と子どものことに関して連絡を取り合わなければなりませんので、再びDVやモラハラの被害を受けるリスクが生じます。
改正案では、DVや虐待があると裁判所が認めた場合、単独親権にしなければならないとされています。
しかし、裁判所がどのような基準で認定するのかといった点への懸念が根強く、子どもが不利益を受けないように行政や福祉などに充実した支援を求める付帯決議もつけられました。
このような裁判所の体制や行政・福祉の支援について、施行までにどこまで整備されるかも課題となります。
上記のような点を懸念して、共同親権の導入に消極的な意見も根強くありますので、共同親権の導入にあたっては各デメリットへの配慮が必要になるでしょう。
2.共同親権はいつから日本で導入されるの?
共同親権の導入に向けて、法制審議会では2021年から議論を重ねてきました。そして、2024年1月29日の部会で共同親権の導入に向けた民法改正の要綱案がまとめられました。
そして、2024年5月16日の参院法務委員会でこの改正案が賛成多数で可決され、翌日17日の参院本会議で可決、成立しました。
これにより、2026年までに共同親権が導入される見込みです。
3.共同親権に関するよくある疑問
共同親権が導入された場合、どのような影響が生じるのでしょうか?
以下では、共同親権に関するよくある疑問とその回答を紹介します。
3−1.既に離婚している人には適用される?
共同親権が導入される前にすでに離婚している夫婦は、単独親権を定めた現行の民法が適用されていますので、離婚時にどちらか一方を親権者に定めているはずです。
共同親権が導入されたとしても遡及適用はされませんので、すでに離婚をして単独親権になっている人が当然に共同親権に変更されることはありません。
しかし、単独親権に不満がある父または母は、家庭裁判所に親権者変更の調停・審判の申立てをすることにより、共同親権への変更を求めることも可能とされています。
ただし、共同親権への変更により、子どもや元配偶者に悪影響を及ぼすおそれがある場合には、共同親権への変更は認められません。
3−2.再婚した場合はどうなる?
子連れで再婚をする場合、再婚相手と子どもとの間で養子縁組をするケースが多いです。
現行法では、養子が未成年であった場合、養親の親権に服すると定められていますので(民法818条2項)、離婚により単独親権になった場合でも、養子縁組により実親と養親との共同親権となります。
共同親権が導入された場合、共同親権とされた実親と養子縁組をした養親との親権の関係が問題になりますが、改正案では、養親および養親と再婚した配偶者(実親)の共同親権になることを予定しています。
なお、養子となる子どもが15歳未満の場合、子どもの法定代理人である親権者の承諾が必要になります。共同親権だと父と母双方の承諾が必要になりますが、再婚を快く思わない側から養子縁組に関して承諾を得られない可能性があります。
このような場合には家庭裁判所に申し立てをすることにより、父または母のどちらか一方の承諾で足りる旨の決定をすることができるとされています。
4.諸外国の親権制度
海外では、子どもの親権に関してどのような制度が採用されているのでしょうか。
最後に、諸外国における親権制度を紹介します。
4−1.諸外国では共同親権を認める国が圧倒的多数派
法務省の調査によると、諸外国における親権制度は以下のようになっています。
単独親権のみが 認められている国 |
共同親権も 認められている国 |
---|---|
インド、トルコ | アメリカ(ニューヨーク州、ワシントンDC)、カナダ(ケベック州、ブリティッシュコロンビア州)、メキシコ、アルゼンチン、ブラジル、韓国、中国、フィリピン、インドネシア、タイ、イタリア、イギリス(イングランドおよびウェールズ)、ドイツ、オランダ、スイス、スウェーデン、スペイン、フランス、ロシア、サウジアラビア、南アフリカ、オーストラリア |
この表からもわかるように、諸外国では単独親権だけでなく共同親権も認める国が圧倒的多数となっています。
ただし、共同親権を認めている国の中でもその内容は国によって異なっている点に注意が必要です。
4−2.諸外国における共同親権の内容
離婚後の共同親権を認める国の中には、共同親権の内容を限定する国もあります。
たとえば、ドイツでは子どもにとって著しく重要な事項を決定する際には父母の同意が必要になりますが、日常生活に関する事項については同居親が単独で決定することができるとされています。
メキシコでは、父母が共同して行使する親権の内容は財産管理に限定されており、監護権については父または母のどちらか一方が単独で行使することとされています。
5.まとめ
海外では「子の利益」を守るために共同親権を認める国が圧倒的多数で、日本でも近いうちに共同親権が導入されます。
今後離婚を検討している方は、国会での最新の議論の状況にも注目していくことが必要になります。
あたらし法律事務所はこのような最新の状況にも対応した上で離婚問題を解決いたしますので、お悩みの方はご相談ください。
【関連リンク】取扱分野|離婚