相続手続きを進めようとしたところ、連絡先がわからず連絡を取ることができない相続人がいるというケースもあります。
遺産分割協議を成立させるためには、相続人全員の合意が必要となりますので、そのままの状態では被相続人名義の預貯金の払戻し手続きや不動産の名義変更などの手続きをすることができません。
このようなケースについては、相続人の状況に応じて適切な手段を選択することによって、相続手続きを進めていくことが可能になります。
今回は、連絡が取れない相続人がいる場合の相続手続きの注意点について解説します。
目次
1.相続手続きと相続人の合意について
被相続人が遺言書によってすべての遺産相続の方法を指定していた場合には、遺言書に従って遺産を分けることができます。
しかし、遺言書がなかった場合や、遺言書があっても一部の遺産に漏れがあった場合については、相続人による遺産分割協議によって遺産分割方法を決めていくことになります。
この遺産分割協議を有効に成立させるためには、相続人全員の合意が必要になります。
そのため、連絡が取れない相続人がいるからといって、その相続人を除いて遺産分割協議を進めてしまうと、その遺産分割協議は無効になってしまいます。
無効な遺産分割協議では、預貯金の払戻し、不動産の名義変更などの相続手続きを進めていくことはできませんので、連絡が取れない相続人についても遺産分割の手続きに加えなければなりません。
2.連絡先がわからない相続人がいる場合
連絡を取ることができない相続人がいるという場合には、以下のような対処法が考えられます。
2-1.戸籍の附票を取得
相続人の中に、被相続人の甥・姪、前妻(夫)の子どもなど、関係性が希薄な親族がいる場合には、お互いの連絡先や住所がわからず、連絡できないことがあります。
このようなケースでは、当該相続人の戸籍の附票を取得することによって現在の住所を調べることができます。
住所を調べるというと「住民票」を思い浮かべる方もいるかもしれませんが、住民票を取得するためには、申請書にその人の住所を書かなければなりませんので、そもそも住所がわからないという場合には取得することができません。
これに対して戸籍の附票は、その人の本籍地がわかれば取得することができますので、相続人調査の際に取得した戸籍謄本などがあれば戸籍の附票を取得することが可能です。
2-2.現在の住所地宛てに手紙を送付
戸籍の附票によって住所がわかった場合には、その住所地宛てに手紙を送るとよいでしょう。
手紙には、被相続人が死亡したこと、遺産分割にあたって協力が必要なことなどを記載して、相手からの返答を待ちましょう。
相手からの返答があった場合には、お互いに連絡先を交換するなどして、遺産分割手続きを進めていきます。
3.遺産分割協議に応じない・無視する相続人がいる場合
遺産分割協議に応じないまたは無視する相続人がいる場合には、以下のような対処法が考えられます。
3-1.弁護士に依頼をして交渉
これまで疎遠であった相続人や不仲な相続人に対して、遺産分割のための連絡をしたとしても、無視されたり応じてもらえなかったりすることがあります。
このような場合には、弁護士を窓口にして交渉をすることによってスムーズに話し合いが進むことがあります。
また、当事者同士の対応では、法的知識の乏しさから相手に対して不信感を抱かせる結果、遺産分割協議に応じてもらえないことがありますが、弁護士からしっかりと説明があれば話し合いに応じてくれる可能性もあります。
対応が難しいと感じた場合には、弁護士への依頼も検討してみるとよいでしょう。
3-2.遺産分割調停
話し合いに応じてくれない場合には、家庭裁判所に遺産分割調停の申立てを行います。
遺産分割に応じない理由が「面倒な手続きに巻き込まれたくない」という理由であった場合には、遺産分割調停を欠席したとしても調停条項案に合意する書面(受諾書面)を提出することによって調停を成立させることができる場合もあります。
また、相続分の放棄や相続分の譲渡をすることによって調停から脱退することも可能です。
3-3.遺産分割審判
相続人が調停を欠席し、上記の方法によっても調停を成立させる見込みがない場合には、遺産分割調停は不成立となり、自動的に遺産分割審判に移行します。
遺産分割審判では、相続人が欠席をしていたとしても、裁判官が適当と考える遺産分割方法を決定してくれますので、必ず結論が出ることになります。
4.相続人が行方不明の場合
相続人に連絡をしても無視されるなど、相続人の所在が判明している場合には上記のように遺産分割の手続きを進めていきます。
しかし、そもそも相続人が行方不明であり連絡も取れないというケースでは、別の手続きが必要になります。
4-1.不在者財産管理人選任の申立て
行方不明で音信不通になっている相続人がいる場合には、「不在者財産管理人の申立て」という手続きをとる必要があります。
不在者財産管理人とは、行方不明となっている人に代わってその人の財産を管理する人のことをいいます。遺産分割の場面では、行方不明となっている相続人に代わって不在者財産管理人を遺産分割協議に参加させることによって、有効に遺産分割協議を成立させることができます。
不在者財産管理人の選任申立の方法は以下のとおりです。
利害関係人にあたる人としては、不在者の配偶者、共同相続人、債権者など
申立人 | 利害関係人または検察官 |
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申立先 | 不在者の住所地または居所地の家庭裁判所 |
費用 | ・収入印紙:800円 ・連絡用の郵便切手(裁判所によって値段が異なる) |
必要書類 | ・不在者財産管理人選任申立書 ・不在者の戸籍謄本 ・不在者の戸籍の附票 ・財産管理人候補者の住民票または戸籍の附票 ・不在の事実を証明する資料 ・不在者の財産に関する資料 ・利害関係を証明する資料 |
4-2.失踪宣告の申立て
長期間相続人が行方不明になっているという場合には、「失踪宣告の申立て」という手続きをとることもできます。
失踪宣告がなされると、その人は法律上死亡したものとみなされますので、その人を除外して遺産分割協議を進めることが可能になります。
失踪宣告の申立てをする場合には、以下の要件を満たす必要があります。
- 普通失踪:行方不明になってから7年以上生死不明
- 特別失踪:遭難、災害などの危難があってから1年以上生死不明
失踪宣告の要件を満たす場合であっても、不在者財産管理人の選任申立をすることができます。
5.相続人に連絡が取れない場合によくある質問(FAQ)
海外にいる相続人に連絡が取れない場合はどうすればいい?
海外在住で連絡が取れない相続人がいる場合に、出国先が分からなければ、まず当該相続人の戸籍の附票の写しを取得します。
海外在住となる場合には、転出届を提出し、住民基本台帳から除票されることになります。転出届には、出国先を記載しなければならず、戸籍の附票を取り寄せれば、出国先の国が判明するからです。
出国先が分かったら、外務省の「所在調査」を利用して、連絡が取れない相続人の所在を調査してもらいます。
所在調査でも行方が分からなければ、前述した「不在者財産管理人の申立て」や「失効宣告の申立て」を行って、遺産分割協議を進めます。
長期間連絡が取れない海外在住の相続人がいる場合には、弁護士に依頼すると、代理人として調査の代行をしてもらうこともできます。
【参考サイト】「所在調査(三親等内の親族からの依頼)」|外務省
連絡が取れない相続人がいることを理由に遺産分割しないとどうなる?
連絡が取れない相続人がいることを理由に、遺産分割をしないで放置すると、以下のような不利益が発生します。
相続不動産の利用が難しくなる
遺言書がなければ、相続開始と同時に、遺産は相続人全員の共有財産となります。相続した不動産も例外ではありません。相続した不動産の増改築や解体、建て替え、売却などをする際には、相続人全員の合意が必要になります。そのうえ、被相続人の名義のままでは、売却しようにも、買手が現れることはないでしょう。
2024年の4月1日からは、相続登記が義務化されます。相続した不動産の登記は、早めにしておくに越したことはありません。
被相続人の預貯金の払い戻しができない
民法が改正されたことによって、各相続人が、預貯金額に法定相続分の1/3を乗じた額または150万円いずれか低い金額までは、被相続人の口座から預貯金を出金できるようになりました。
しかし、預貯金全額を払い戻しできるわけではありません。
相続税申告で発生する不利益
相続税の基礎控除以上の遺産があると、相続税申告の必要があります。
しかし、申告期限までに遺産分割が成立していなければ、各相続人が法定相続分で相続したと仮定して申告し、節税に効果的な「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」といった特例の適用も受けることができません。
申告時に、「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付したうえで期限後3年以内に遺産分割ができれば、遡ってこれら特例の適用を受けることができますが、できなければ、高額な相続税を支払ったままとなります(※)。
※ただし、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を、申告期限の3年後から2カ月以内に税務署に提出し、遺産分割調停や審判中などのやむをえない事由があることが認められれば、遺産分割時に特例の適用を受けることができるようになります。
6.連絡が取れない相続人がいる場合は弁護士へ
連絡が取れない相続人がいることが判明すると、相続手続きが面倒になってしまい、そのままの状態で放置してしまう方も少なくありません。
しかし、(遺産分割自体には期限はありませんが)相続放棄や相続税の申告には法律上期限が設けられていますので、期限内に手続きを行わなければ、期待する効果を得られないだけでなく一定のペナルティが科されるリスクもあります。
また、長期間相続手続きを放置していると、別の相続が発生するなどして相続人の数が増えていき、ますます相続手続きが困難な状態となってしまいます。
原因が、連絡先がわからないのか、連絡しても無視されるのか、行方不明であるのかによって必要となる手続きが異なってきます。
ご自身のケースでどのような手続きが必要となるのかについては、専門家である弁護士に判断してもらうとよいでしょう。弁護士に依頼をすれば複雑な手続きであってもすべて任せることができますので、相続手続きに要する負担を大幅に軽減することが可能です。
疎遠であったり、不仲であったりする相続人との接触をご自身で進めてしまうと、かえって事態が複雑化してしまうケースも少なくありません。
お困りの方は、あたらし法律事務所にぜひ一度ご相談ください。