公開日: 2022年08月31日
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複雑な相続手続きを任せられる「遺言執行者」を選任しよう

生前に遺言書を作成しておくことによって、自分の意思を反映した遺産相続を実現することができます。
しかし、相続人同士のトラブルが予想されるケースや相続財産が多いケースでは、遺言書の内容を実現するにあたって困難が生じることもあります。

そのような場合には、遺言執行者を指定することによって、複雑な相続手続きであってもスムーズに進めることが可能になります。遺言内容を確実に実現するためにも、遺言執行者は不可欠な存在といえるでしょう。

今回は、遺言執行者の役割や、遺言執行者を指定する方法などについて解説します。

1.遺言執行者とは?

1-1.遺言執行者の役割

遺言執行者とは、遺言書の内容に従った相続を実現するために、必要な相続手続きを行う人のことをいいます。

遺言執行者は、以前は、「相続人の代理人」とされていましたが、令和元年7月に施行された改正民法によりこの規定は削除されました。これによって、遺言執行者は、相続人の代理人という立場からは独立して、遺言の内容を実現するための強い権限が与えられることになりました。

なお、遺言執行者ができることとしては、以下のものが挙げられます。

  • 遺贈
  • 預貯金の払戻し
  • 子どもの認知
  • 相続廃除

1-2.遺言執行者を選任すべきケース

遺言書を作成する際には、遺言執行者を指定していなかったとしても遺言が無効になるわけではなりません。しかし、以下のようなケースでは、スムーズに遺言内容を実現するためにも遺言執行者を指定しておくべきでしょう。

①子どもの認知

婚姻関係にない男女の間に生まれた子どもとの間に法律上の親子関係を生じさせるためには、認知という手続きをする必要があります。
生前はさまざまな事情があり認知することができなかった人も、死後に子どもの認知をするということがあります。

遺言による認知をする場合には、遺言執行者が認知届を提出することになりますので、遺言執行者の選任が必須となります。

②相続廃除

推定相続人のなかに、遺言者に対して、虐待・侮辱・著しい非行などをした人がいる場合には、相続廃除の手続きによって、当該相続人の相続権を奪うことができます。

相続廃除は、家庭裁判所に申立てをする必要がありますので、その手続きを行う遺言執行者の選任が必須となります。

③遺贈

遺言書で遺贈がなされた場合には、相続人が遺贈義務者となって手続きを行うことになります。しかし、相続人の中に遺贈に反対している人がいる場合には、スムーズに遺贈の手続きを実現することができません。

遺言執行者を選任していれば、遺言執行者が遺贈義務者となって受遺者に対して遺贈の手続きを行うことができます。

④相続人が多忙・手続きに不安がある

遺言執行者は、相続人に代わって相続手続きを行うことができます。そのため、相続人が多忙で相続手続きを行う余裕がない場合や、相続手続きに不安があるという場合にも、遺言執行者を選任するとよいでしょう。

2.遺言執行者を選任するメリット

法律上遺言執行者の選任が必要とされている場合(認知、相続廃除など)以外であっても、遺言執行者を選任することによって、以下のようなメリットが得られます。

2-1.不動産の遺贈をスムーズに行える

相続人だけでも遺贈の手続きを行うことはできます。しかし、相続人のなかに遺贈に反対をしている人がいた場合には、不動産の名義変更のための所有権移転登記ができずに裁判をしなければならないという事態にもなりかねません。

遺言執行者がいる場合には、遺言執行者だけしか遺贈の履行ができませんので、遺贈に反対する相続人がいたとしても、遺言執行者のみで不動産の所有権移転登記が可能です。受遺者にとっても、遺言執行者のみを相手にすればよいため、負担が軽減されるといえます。

2-2.預貯金の払戻し手続きが簡略化できる

民法改正によって、特定財産承継遺言がある場合には、遺言執行者に預貯金の払戻しや解約の権限が与えられるようになりました(民法1014条3項)。

特定財産承継遺言とは、遺産に含まれる特定の財産を相続人の1人または数人に承継させる内容の遺言です。たとえば、「A土地を長男に相続させる」「B銀行の預貯金を長女に相続させる」という内容の遺言のことをいいます。

このような遺言であった場合には、遺言執行者が相続人に代わって預貯金の払戻しをすることができますので、相続人全員の印鑑登録証明書が不要となるなど、預貯金の払戻し手続きを簡略化することができるというメリットが得られます。

3.遺言執行者がいる場合の相続人の行為制限

遺言執行者がいる場合、相続人は、遺言の対象になっている相続財産について処分をしたり、遺言の執行を妨げるべき行為をすることができなくなったりします(民法1013条)。

具体的には、遺言によって第三者に不動産が遺贈された場合、相続人が当該不動産を売却する、当該不動産を担保に入れるといった行為です。相続人がこのような行為をしたとしても、当該法律行為はすべて無効となります。

ただし、遺言書によって遺言執行者が指定されていない場合には、家庭裁判所の審判によって遺言執行者が選任され、その審判が確定された時点から相続人の行為が制限されることになります。

4.遺言執行者の指定・選任の手続き

遺言執行者を指定・選任する手続きは、以下のとおりです。

4-1.遺言書で遺言執行者を指定

遺言書を作成する時点で、遺言執行者にしたい人が決まっている場合には、遺言書で遺言執行者を指定します。

しかし、遺言執行者に指定されていたとしても、遺言執行者に就任するかどうかはその人の判断に委ねられていますので、確実に遺言執行者に就任して欲しいという場合には、あらかじめ遺言執行者になる人にお願いをしておくとよいでしょう。

4-2.相続開始時に遺言執行者を第三者に指定してもらう

遺言執行者にしたい人が決まっていない場合には、「遺言執行者を指定する第三者」を指定するという方法をとることもできます。

このような方法をとることによって、指定された第三者に相続開始時点でもっともふさわしい人を遺言執行者に指定してもらうことができます。

4-3.家庭裁判所の審判によって遺言執行者を選任

遺言書によって遺言執行者の指定が行われていない場合、または指定された遺言執行者が就任を拒否した場合には、家庭裁判所に遺言執行者選任の申立てをすることができます。

ただし、遺言執行者選任の申立ては、遺言の執行が必要な場合に限られますので、「遺言執行者がいた方が、手続きがスムーズだから」という理由だけでは申立てが却下されることになりますので注意が必要です。

スムーズな遺言執行を実現したいという希望がある場合には、あらかじめ遺言書で遺言執行者を指定しておいた方がよいでしょう。

5.遺言執行者についてのよくある質問(FAQ)

遺言執行者にはいくらくらい報酬を支払えばいい?

遺言執行者の報酬額の決定方法

遺言執行者の報酬は、以下の方法で決めることができます。

  • 遺言書に報酬額を記載しておく
  • 遺言書への記載がなければ、相続人との協議により決める
  • 協議が整わなければ、家庭裁判所に報酬付与の申立てを行い決めてもらう

報酬を含め、遺言執行に関する費用は、相続財産から支払われることになります(民法1021条)。

遺言執行者の報酬相場

特に規定が設けられているわけではありませんが、一般に遺言執行者の報酬は、遺産総額の1%~3%が相場を言われています。

相続人が遺言執行者に指名された場合には、無償のことも多くなります。

弁護士が遺言執行者に就任した場合の報酬相場

多くの法律事務所がいまだに報酬を定めるために参考にする旧弁護士報酬基準では、次のように定められています。

遺産総額 報酬額
~300万円 33万円
300万円超~3,000万円 遺産総額×2.2%+26.4万円
3,000万円超~3億円 遺産総額×1.1%+59.4万円
3億円超~ 遺産総額×0.55%+224万4,000円
司法書士が遺言執行者に就任した場合の報酬相場

司法書士の場合には、遺言執行者に就任した場合の報酬基準が存在しないため、事務所によってまちまちです。

最低報酬額を25万円~30万円程度とし、遺産の総額に応じて0.5~2%程度の報酬を設定する事務所が多いようですが、事務所によってバラつきがあるので、依頼する際は、直接確認したほうがいいでしょう。

信託銀行が遺言執行者に就任した場合の報酬相場

信託銀行では、遺言書の作成や、保管、執行をパッケージにした「遺言信託」を提供しています。

しかし、信託銀行では直接遺言執行をするのではなく、司法書士や弁護士に委託するため、相場は高くなる傾向にあり、最低執行報酬を30万円~50万円程度としている銀行が多いようで、100万円を超える額を最低報酬額として設定する銀行もあります。

そのため、利用する際には、事前に費用を問い合わせ、費用対効果を確認する必要があるでしょう。

遺言執行者が死亡してしまったら?

遺言執行者が相続開始前に死亡した場合

指定した遺言執行者が相続開始前に死亡してしまった場合には、遺言書を書き換えることで新たな遺言執行者を指定することができます。

もし、遺言者が新たに遺言執行者を指定することなくお亡くなりになった場合には、相続人は、家庭裁判所に遺言執行者選任の申し立てが可能です(民法1010条)。

相続開始後、遺言執行者が就任前に死亡した場合にも、同じ扱いとなります。

遺言執行者が就任後に死亡した場合

遺言執行者が就任し、遺言の執行中に亡くなった場合にも、相続人は、家庭裁判所に遺言執行者選任の申し立てができます。

ただし、死亡した遺言執行者が執行した部分の報酬請求権は、死亡した遺言執行者の相続人が相続することになる点には注意が必要です。

遺言執行者が死亡するトラブルの回避法

遺言者は、遺言執行者が死亡した場合などに備えて、予備的な遺言執行者を指定しておくことが可能です。

また、法人には「死亡」という概念が想定されていないことから、弁護士法人などの法人を遺言執行者に指定しておけば、遺言執行者がいないといった不測の事態が発生することはないでしょう。

詳しくは、相続に強い弁護士にご相談ください。

6.遺言執行者として弁護士の指定がおすすめ

遺言執行者は遺言の実現という複雑な業務を行うことから、法律上の特別な資格が必要だと考える方もいるかもしれません。
しかし、遺言執行者は、未成年者と破産者以外であれば誰でもなることができます。そのため、相続人や受遺者を遺言執行者と指定することも可能です。

もっとも、遺言執行にあたっては相続に関する知識や法律の理解が不可欠となりますので、弁護士などの専門家を遺言執行者に指定することをおすすめします。

弁護士を遺言執行者に指定しておけば、相続人同士でトラブルが生じたとしても適切に対応してくれますので、ご自身が亡くなった後のことも安心して任せることができるでしょう。

遺言書の作成や遺言執行者のご依頼については、あたらし法律事務所の弁護士に是非ご相談ください。

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