公開日: 2022年07月22日
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不当な残業代請求等をされたら|従業員対応の注意点

従業員に残業させた場合、会社は、従業員に対して残業代を支払う義務があります。

しかし、会社と従業員との間の契約内容や就業形態によっては、残業をしたとしても残業代が発生しない場合もあります。また、従業員側が計算した残業代が間違っている場合もありますので、不当な残業代請求をされた場合には、それに対して適切な対応をとることが求められます。

今回は、従業員から不当な残業代請求をされた場合の対応方法とその注意点について解説します。

1.残業に関する法律上の取り扱い

労働基準法では、1日8時間、週40時間を「法定労働時間」と定めており、それを超えて働かせるためには、36協定の締結と届出が必要とされています。

そして、36協定を締結したとしても、労働時間の上限なく働かせることができるわけではなく、月45時間、年360時間という残業時間の上限が定められています。

このように、会社としては、36協定の締結・届出を行い、残業時間の上限規制内であれば、従業員に対して残業を命じることが可能です。
もっとも、従業員に残業をさせた場合には、残業時間に応じた残業手当や割増賃金を支払う必要があります。

2.残業代が発生しないケース

従業員を残業させた場合には原則として残業手当などを支払う義務が生じますが、例外的に、以下のようなケースでは残業代の支払いは不要とされています。

2-1.従業員が労働基準法上の管理監督者にあたる場合

管理監督者とは、経営方針について発言権のある立場の従業員や決裁権を有する従業員など、一定の重要な地位・権限を有しており、経営者と密接な関係にある従業員のこといいます。従業員が労働基準法上の管理監督者にあたる場合には、会社は、従業員に対して残業代を支払う必要はありません。

ただし、「名ばかり管理職」が問題視されるようになってきたことからもわかるとおり、労働基準法の管理監督者にあたるかどうかは、「部長」「課長」「マネージャー」といった従業員に与えられた肩書ではなく、実質で判断するという点に注意が必要です。

2-2.固定残業代によって支払い済みである場合

固定残業代とは、毎月の給与にあらかじめ一定時間分の残業代を含めて支払う制度のことをいいます。固定残業代制度を利用することによって、会社としても面倒な残業代計算を簡略化することができるというメリットがありますので、既に導入しているという会社も少なくないでしょう。

たとえば、固定残業代として30時間分で5万円を支払うという契約内容であった場合には、30時間分の残業代については固定残業代として既に支払われていることになります。

30時間を超える部分については、別途残業代を支払う必要がありますが、従業員の残業時間が30時間以内であった場合には、従業員に対して別途残業代を支払う必要はありません。

2-3.みなし労働時間制が適用される場合

みなし労働時間制とは、実労働時間を把握することが難しい業務に対して適用される労働時間制のことをいい、実際の労働時間にかかわらず、あらかじめ定めた一定時間を働いたものとみなすことになります。

そのため、みなし労働時間が法定労働時間の範囲内で設定されている場合には、実際の労働時間が法定労働時間を超えていたとしても、残業代を支払う必要はありません

2-4.残業代請求権の時効が成立している場合

従業員が正当に残業代を請求する権利がある場合であっても、一定期間の経過によって、残業代請求権が消滅していることがあります。

残業代請求権の時効は、3年(令和2年3月31日以前に発生した賃金債権は2年)とされていますので、給料日の翌日から起算して3年が経過している場合には、従業員からの残業代請求に応じる必要はありません。

3.従業員から不当な残業代請求を受けた場合の対応

従業員から不当な残業代請求を受けた場合には、以下のような対応をとる必要があります。

3-1.従業員の請求内容を精査

従業員から残業代請求を受けた場合、まずは、請求内容を精査することから始まります。

従業員が残業をした場合には、会社としては残業代を支払うのが原則となりますが、既に説明したとおり、例外的に残業代の支払いが不要となるケースもあります。
そのため、従業員との契約内容や就業形態などを踏まえて、そのような例外的なケースに該当するかどうかを検討するようにしましょう。

3-2.未払いの残業代がある場合には金額を計算

残業代を支払わなくてもよい例外的なケースに該当しない場合には、残業代を支払う必要があります。しかし、残業代計算に必要となる就業規則、賃金規程、タイムカードなどはすべて会社側にありますので、従業員が請求している残業代の金額が正しいものであるとは限りません。

そこで、従業員側が請求する未払いの残業代の金額や根拠が正しいものであるかどうかを判断するためにも、会社側でも対象となる従業員の残業代を計算していくことになります。

3-3.従業員との交渉

従業員から残業代請求を受けた場合には、上記の準備を踏まえて、従業員と話し合いによる交渉を行っていきます。

会社が残業代を支払う必要がないケースや労働者が計算する残業代の金額が誤っているという場合には、きちんと根拠を示しながら従業員に対して説明をしていくことが大切です。
法的に支払い義務がない場合であっても、十分な説明を行わなければ、納得できない従業員から訴訟提起されるなどのリスクが生じます。

従業員との交渉によって合意が得られた場合には、合意書などを作成しておくようにしましょう。そうすることによって、残業代に関するトラブルが蒸し返されるリスクを回避することができます。

3-4.話し合いでの解決が難しい場合には労働審判や訴訟対応

当事者同士での話し合いがまとまらなかった場合には、労働審判や訴訟によって解決することも可能です。

労働審判であれば、訴訟に比べて迅速かつ柔軟な解決が可能ですので、話し合いでの解決の余地がある場合には、まずは労働審判を利用するのも有効な手段といえるでしょう。

ただし、労働審判や訴訟となると、弁護士の力が必要となってきます。短い期間にたくさんの資料を用意する必要もありますので、早めに弁護士に相談するようにしましょう。

4.従業員対応の注意点

残業代請求に対する従業員対応をする場合には、以下の点に注意が必要です。

元従業員から残業代請求をされた場合には、残業代の問題だけを解決すればよいため、問題としては単純です。しかし、在籍中の従業員から残業代請求をされた場合には、今後も雇用関係が続いていきますので、その後の対応についても注意が必要となります。

会社としては、残業代請求によってトラブルが生じた従業員の扱いに困り、配置転換、降格、解雇などの処分を検討することもあるかもしれませんが、このような不利益取り扱いは法律上禁止されています。

残業代請求をしたことを理由にこれらの処分をしてしまうと、不当な処分であるとして従業員から訴えられる可能性もありますので注意しましょう。

5.残業代の支払いについてのよくある質問(FAQ)

会社は残業を禁止していても残業があれば残業代を払う必要があるの?

会社が残業を禁止していたとしても、従業員が残業をしている実態を認識し、黙認していたとすると、黙示の指示があったものとして、残業代を支払う必要があります。

残業禁止を命じたとしても、従業員が残業せざるを得ない状況にあり、実際に残業をしている従業員がいれば、残業代の支払義務は生じます。

一方で、残業禁止を命じた学校法人と労働者が残業の割増賃金の支払いについて争った事案では、支払いを認めなかった裁判例もあります。

学校法人が残業を禁止しており、終業時以降の業務があれば管理職が職員から報告を受けて引継ぎをするように指示していたことから裁判所は、「使用者の明示の残業禁止の業務命令に反して、労働者が時間外または深夜にわたり業務を行ったとしても、これを賃金算定の対象となる労働時間と解することはできない」として割増賃金の支払いを認めませんでした(平成17年3月30日東京高等裁判所判決)。

残業代は、あくまで実態に即して支払うことになります。

残業代を支払うかどうか判断が難しい場合はどうすればいい?

従業員からの残業代請求が正当なものであるかどうか、請求されている金額が正しいものであるかどうかについては、法的観点からの検討が必要になってきますので、会社だけでは適切な判断が難しい場合もあります。そのような場合には弁護士に相談をすることをおすすめします。

弁護士に相談をすることによって、従業員からの残業代請求に対する適切な対応についてアドバイスしてもらうことができますし、面倒な残業代計算についても弁護士が代わりに行ってくれます。
対応が難しい従業員である場合には、弁護士が窓口となって話し合いを進めてくれますので、会社の負担は大幅に軽減されるでしょう。

従業員対応を誤ると訴訟リスクが高まりますので、そのような事態を回避するためにも、従業員から残業代請求をされた場合には早めに弁護士に相談をするようにしましょう。

6.まとめ

従業員から残業代請求をされた場合には、正当な請求であればそれに応じる必要があります。
もっとも、従業員からの請求内容が常に正しいとは限りませんので、会社側においてもその内容を精査した上で、不当な残業代請求が含まれている場合にはそれに応じる必要はありません。

従業員からの残業代請求などの問題でお悩みの経営者の方は、あたらし法律事務所の弁護士にご相談ください。

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