賃貸不動産のオーナーとしては、賃貸物件の老朽化を理由とした建て替えや、オーナー自らが不動産を利用したいなどの理由から、賃借人に土地や建物から立ち退いてもらいたいと考えることもあります。
しかし、借地人や借家人の権利については、借地借家法という法律によって手厚く保護されていますので、契約期間が満了したとしても容易に立ち退きを求めることができません。
立ち退きを求めるためには、借地借家法が規定する正当の事由が存在していることが必要となります。
今回は、借地・借家の契約期間満了を理由として借主の退去・立ち退きを求めることができる場合について解説します。
目次
1.賃貸借契約終了の要件
賃貸借契約で定められた契約期間が満了したとしても、それだけで賃貸借契約が終了するわけではありません。
期間満了によって賃貸借契約を終了させるためには、以下の要件を満たす必要があります。
1-1.土地の場合
土地の賃貸借契約について期間満了を理由に賃貸借契約を終了させるためには、以下の要件を満たす必要があります。
①存続期間が満了すること
借地権の存続期間は30年とされていますが、契約でこれよりも長い期間を定めることができます(借地借家法3条)。
契約で30年未満の存続期間を定めた場合には、期間の定めは無効になり、存続期間は30年となります。
なお、平成4年8月1日よりも前に設定された借地契約については、旧借地法が適用されますので、期間の定めのない場合には、堅固建物の所有を目的とする借地権の存続期間は60年、非堅固建物の所有を目的とする借地権の存続期間は30年となります。
したがって、土地の賃貸借契約の終了を主張するためには、まずは、上記期間が満了することが必要となります。
②賃借人から契約更新の請求がないことまたは賃借人による土地の使用継続がないこと
借地契約においては、借地権の存続期間が満了する場合であっても、賃借人が借地契約の更新を請求したときは、建物がある場合に限り、契約は更新したものとみなされます(借地借家法5条1項)。
また、賃借人から借地契約の更新の請求がなかったとしても、賃借人が土地の使用を継続する場合には契約は更新されたものとみなされます(借地借家法5条2項)。
したがって、期間満了を理由として土地の賃貸借契約を終了させるためには、賃借人から契約更新の請求がないことまたは賃借人による土地の使用継続がないことが必要になります。
ただし、賃借人から更新の請求または土地の使用継続があったとしても、賃貸人が遅滞なく異議を述べ、かつその異議に正当事由がある場合には、存続期間の満了によって土地の賃貸借契約は終了します(借地借家法5条1項・2項、6条)。
1-2.建物の場合
建物の賃貸借契約について期間満了を理由に賃貸借契約を終了させるためには、以下の要件を満たす必要があります。
①存続期間が満了すること
民法604条は、賃貸借契約の存続期間について50年を超えることはできないと規定しています。
しかし、借地借家法29条2項では、建物の賃貸借について民法604条の適用を排除していますので、50年を超える契約も有効となります。
他方、建物の賃貸借契約の最短期間は1年であり、1年未満の期間を定めた場合には、期間の定めのない賃貸借契約とみなされます。
したがって、建物の賃貸借契約の終了を主張するためには、まずは、上記期間が満了することが必要となります
②更新拒絶通知を行う
期間の定めのある建物の賃貸借契約の場合には、期間満了の1年前から6か月前までの間に相手方に対して「更新しない旨の通知」または「条件を変更しなければ更新しない旨の通知」をしなかった場合は、従前の契約と同一条件で契約を更新したものとみなされます(借地借家法26条1項)。これを「法定更新」といいます。
したがって、期間の定めのある建物の賃貸借契約においては、賃貸人から期間満了による終了をしたい場合には、期間満了の1年前から6か月前までの間に、更新拒絶の通知をする必要があります。なお、更新拒絶の通知には、正当事由が必要となります(借地借家法28条)。
③賃借人が建物の使用を継続している場合に遅滞なく異議を述べる
期間の定めのある建物の賃貸借契約において更新拒絶の通知がなされた場合であっても、契約期間が満了した後、賃借人が使用を継続する場合において、賃貸人が遅滞なく異議を述べなかった場合は、法定更新が生じます(借地借家法26条2項)。
したがって、賃借人が建物の使用を継続している場合は、賃貸人は更新拒絶の通知だけでなく、遅滞なく異議を述べておくことも必要になります。
2.正当の事由とは?
土地および建物の賃貸借契約において期間満了を理由に賃貸借契約を終了させるためには、「正当の事由」が必要になります。
正当の事由とは、どのようなことをいうのでしょうか。
2-1.借地についての正当事由
土地の賃貸借契約について期間満了を理由に賃貸借契約を終了させるためには、賃借人の契約の更新請求および土地の使用継続に対して、賃貸人が遅滞なく異議を述べ、かつ、その異議に正当な事由があることが必要になります。
正当事由の有無については、以下の要素を総合考慮して判断することになります。
①賃貸人・賃借人が土地の使用を必要とする事情
賃貸人および賃借人の土地使用の必要性という事情は、正当事由を判断するにあたっての主たる考慮要素となります。
土地使用の必要性については、土地使用の目的(居住用か営業用か)、職業、家族構成、収入の程度、他に土地を所有しているかなどの事情を考慮して判断することになります。
②借地に関する従前の経過
借地に関する従前の経過としては、以下の事情が考慮されます。
- 借地契約締結の際の事情(権利金・保証金などの授受の有無およびその金額、契約期間の長短)
- 借地契約の経過期間
- 借地契約継続中における更新料・承諾料などの授受の有無およびその金額
- 借地人に賃料不払いや用法違反などの債務不履行があるか
③土地の利用状況
土地の利用状況としては、借地人が当該土地にどのような建物を建築して、どのように土地を利用しているかということが考慮されます。具体的には、以下のような事情です。
- 建物の種類、構造、規模、用途、
- 建物の老朽化の程度
- 当該土地の周辺の状況
- 建物所有目的で当該土地をどの程度利用しているか
④立退料
立退料の提供およびその金額については、上記①から③の正当事由を最終的に補完する要素になります。そのため、立退料の提供だけで正当事由が認められるわけではありませんので注意が必要です。
立退料の金額については、個別事案によって異なってきますが、借地権価額や建物価額を基準としたり、当該建物で事業を行っていたりする場合には、営業上の補償費もその額に含まれます。
2-2.借家についての正当事由
建物の賃貸借契約について期間満了を理由に賃貸借契約を終了させるためには、賃貸人が更新拒絶の通知を行い、かつ、更新拒絶に正当な事由があることが必要になります。
正当事由の有無については、以下の要素を総合考慮して判断することになります。
①賃貸人・賃借人が建物の使用を必要とする事情
賃貸人および賃借人の建物使用の必要性という事情は、正当事由を判断するにあたっての主たる考慮要素となります。
建物使用の必要性については、以下の事情が考慮されます。
(賃貸人側の事情)
- 自己または家族の居住の必要性
- 家族との同居の必要性
- 建物の老朽化による建替えの必要性
- 敷地の有効利用
(賃借人側の事情)
- 建物の使用継続の必要性(老齢・病気、困窮などのため引っ越しが困難)
- 建物使用の目的(生計を立てるための店舗など)
②建物の賃貸借に関する従前の経過
建物に関する従前の経過としては、以下の事情が考慮されます。
- 借家契約締結の際の事情(権利金・保証金などの授受の有無およびその金額、契約期間の長短)
- 借家契約の経過期間
- 借家契約継続中における更新料・承諾料などの授受の有無およびその金額
- 借家人に賃料不払いや用法違反などの債務不履行があるか
③建物の利用状況
建物の利用状況としては、以下の事情が考慮されます。
- 建物が居住用か事業用か
- 建物の構造が堅固か非堅固か
- 建物の規模(階数、床面積)はどの程度か
- 建築基準法などの法令に適合しているか
④建物の現況
建物の現況としては、以下の事情が考慮されます。
- 建物の老朽化の程度(建物の経過年数や残存耐用年数)
- 大修繕の必要性
- 修繕に必要な費用
⑤立退料
立退料の提供およびその金額については、上記①から④の正当事由を最終的に補完する要素になります。そのため、立退料の提供だけで正当事由が認められるわけではありませんので注意が必要です。
立退料の金額については、個別事案によって異なってきますが、借家権価額、営業補償費、移転補償費などが含まれます。
3.借地・借家の立ち退きについてよくある質問(FAQ)
立ち退き交渉は弁護士に依頼したほうがいい?
立ち退きは、賃借人の生活を左右する繊細な問題です。出来れば最初から、トラブルになったら直ぐにでも弁護士に相談することをお勧めします。弁護士に立ち退き交渉を依頼すると、次のメリットがあります。
- 正当の事由を考慮して適切な立退料の検討ができる
- 家賃を滞納している賃借人に対応でき、滞っている賃料が支払われる可能性がある
- 賃貸人の精神的・物理的負担が軽減できる
- 裁判になっても対応できる
立ち退き交渉を依頼する弁護士はどうやって選ぶ?
では、立ち退き交渉を依頼すべき弁護士選びのポイントは、どこにあるのでしょうか?
- 不動産取引に精通しており、立ち退き交渉の経験が豊富か
- 丁寧に話を聞いてくれる相談しやすい弁護士か
これらのことを念頭に置き、弁護士事務所のホームページや知り合いの口コミなどで確認してから実際に相談に行ってみるといいでしょう。
立ち退き交渉を弁護士に依頼するメリットや弁護士選びのポイントについては、是非「立ち退きについて弁護士に相談・依頼するメリット」もご一読ください。
4.まとめ
借地・借家の退去が認められるか否かは一概に決めることができません。
借地・借家の立ち退きについては、当事者同士の話し合いによって解決するケースが多いですが、場合によっては、「正当の事由」の有無をめぐって裁判などで争われるケースもあります。
借地・借家の立ち退きをめぐってトラブルが生じた場合には、早めに弁護士に相談をするようにしましょう。
あたらし法律事務所は借地・借家の立ち退き交渉の経験も豊富ですので、安心してご相談いただけます。