公開日:

財産開示手続の流れと債務者に無視された時の対応

財産開示手続の流れと債務者に無視された時の対応

債権回収を行うために訴訟を提起して勝訴判決を得たとしても、相手から必ずお金の支払いを受けられるわけではありません。裁判をしても任意に支払わない相手に対しては、「強制執行」の手続きが必要になります。

しかし、強制執行にあたっては相手の財産を特定して行わなければなりません。相手の財産を把握していないと骨折り損になるケースも少なくないのです。

このような場合に有効になるのが「財産開示手続」という制度です。財産開示手続きは近年の法改正により従来よりも使いやすくなりましたので、積極的な利用を検討しましょう。

今回は、財産開示手続の流れと債務者に無視された時の対応について解説します。

1.債権の回収で有効な財産開示手続とは?

早速ですが、財産開示手続とはどのような制度なのでしょうか。

財産開示手続とは、債務者を裁判所に呼び出して、債務者本人に自分の財産についての情報を陳述させる制度です。

強制執行にあたっては、債権者において債務者の財産を特定して行わなければなりません。債務者の財産を把握していない債権者は、苦労して裁判で勝ったとしても財産の特定ができず差し押さえができないケースも少なくありませんでした。

以前から財産開示手続という制度はありましたが、実効性の乏しい制度であったため、財産開示手続の申し立てをしても無視されてしまい、財産の特定ができないこともありました。

しかし、2020年に施行された改正民事執行法により、財産開示手続は実効性のある制度になりました。

法改正前の財産開示手続では、財産開示手続を無視した場合には30万円以下の過料が科されていました。しかし、過料は行政罰であり刑事罰とは異なるため、「財産を差し押さえられるくらいなら、過料を支払ったほうがよい」という考えから、財産開示手続を無視する債務者が少なくありませんでした。

しかし、法改正により、財産開示手続を無視した場合の罰則が6か月以下の懲役または50万円以下の罰金になりました。以前の制度に比べて厳罰化が図られたことから、債務者としても財産開示を無視しづらい状況となったのです。

2.財産開示手続に必要なもの・条件

2-1.財産開示手続に必要なもの

財産開示手続を利用するためには、以下のようなものが必要になります。

①申立書

  • 申立書の表書き
  • 当事者目録
  • 請求債権目録

②執行力のある債務名義の正本(いずれか1種)

  • 判決(確定判決、仮執行宣言付判決)
  • 仮執行宣言付支払督促
  • 公正証書
  • 和解調書
  • 少額訴訟判決
  • 調停調書
  • 家事審判

なお、法改正前は、公正証書、仮執行宣言付判決、仮執行宣言付支払督促については、財産開示の対象となる債務名義には含まれていませんでした。改正民事執行法によりこれらの文書も債務名義に含まれることになり、より利用しやすい制度になりました。

③債務名義の送達証明書・確定証明書

送達証明書とは、債務名義が債務者に送達されたことを証明する文書です。また、確定証明書とは、確定しなければ効力を生じない債務名義を利用する際に必要になる文書です。

④法人の資格証明書

債権者および債務者が法人である場合には、資格証明書として法務局発行の登記事項証明書が必要になります。

⑤戸籍謄本、住民票、戸籍の附票

債務者の債務名義上の住所が変更になった場合には、住民票などの書類が必要になります。

2-2.財産開示手続を利用するための条件

債務名義に基づいて財産開示手続を利用するためには、以下のいずれかの要件を満たす必要があるほか、申立の日前3年以内に財産開示期日においてその財産を開示したものではないことが必要になります。

  • 申立日の6か月以内に実施された強制執行または担保権実行における配当・弁済金交付手続きで、申立人が完全な弁済を受けられなかったとき
  • 申立人が通常行う調査を行い、判明した財産に対して強制執行をしても完全な弁済を得られないことの疎明があったとき

なお、後者の要件を疎明するためには、「財産調査結果報告書」という書類を提出する必要があります。

3.財産開示手続の流れ

3-1.財産開示手続の申立て

財産開示手続を利用する場合には、必要書類をそろえた後で、債務者の住所地を管轄する地方裁判所に財産開示手続の申立てを行います。

3-2.財産開示期日の指定および呼び出し

裁判所は、財産開示手続を実施する要件が満たされているかの審査を行い、要件を満たしている場合には、財産開示手続実施決定を行います。

財産開示手続実施決定が確定後、裁判所は、財産開示期日の指定を行い、債務者に対して期日呼出状と財産目録提出期限通知書が送られます。

3-3.財産開示期日

財産開示期日は、非公開の手続きで行われます。債務者は、指定された期日に裁判所に出頭し、自身の財産について陳述する必要があります。
債権者も裁判所の許可を得て、債務者の財産状況を明らかにするための質問をすることができます。

なお、債務者が財産開示期日に出頭しない、または出頭しても虚偽の陳述をした場合には、刑事罰が科される可能性があります。

4.財産開示手続など債権回収業務を弁護士に依頼するメリット

財産開示手続や債権回収をお考えの方は、弁護士に相談することをおすすめします。

4-1.交渉による債権回収の可能性が高くなる

債権回収をする際には、まずは裁判外の交渉によりお金の支払いを求めていきます。
債権者個人での対応だと、債務者も真剣に取り合わず、無視されたり上手くかわされたりしてしまうケースもありますが、弁護士が窓口になって対応することで債務者も応じてくれる可能性が高くなります。

任意の交渉で解決することができれば、時間も費用も節約することができます。ご自身での対応では債権回収が困難な場合には、まずは弁護士に相談してみると良いでしょう。

4-2.債務者の財産を特定できる

民事執行法の改正により、財産開示手続が利用しやすくなっただけでなく、第三者からの情報取得手続きが新設されました。
第三者からの情報取得手続きとは、債務者の不動産、給与、預貯金、株式などに関する情報を保有する第三者から情報提供を受けることができる手続きです。

財産開示手続の罰則が強化されたとはいえ、それでも無視する債務者もいます。そのような場合には、債務者本人ではなく第三者から財産に関する情報を取得することで、債務者の財産の特定が可能になります。

このように、債務者の財産が不明な場合にはさまざまな制度を利用して特定していくことになりますが、弁護士であれば状況に応じた適切な方法を選択し、実行することができます。

4-3.裁判や強制執行の手続きまで任せられる

債務名義を取得していない場合には、債務者に対して訴訟を提起するなどしてまずは債務名義を取得しなければなりません。債務名義を取得しても任意に支払いがなされない場合には、強制執行の申立てが必要になります。

このような裁判や強制執行の手続きは、非常に複雑かつ専門的な手続きになりますので、法的知識がなければ適切に対応することが難しいといえます。
弁護士であれば、より確実に対応することができますので、まずはご相談ください。

5.まとめ

改正民事執行法が2020年に施行されたことにより、財産開示手続の罰則が強化され、より実効性のある手続きになりました。
また、開示義務のある債務者が財産開示に応じない場合には、新たに導入された第三者から情報取得手続きを利用することで、強制執行に必要な財産に関する情報が得られる可能性があります。

債務者の財産が特定できずお困りの方は、弁護士が財産の特定や強制執行の手続きをサポートいたしますので、あたらし法律事務所にどうぞご相談ください。

お問い合わせ
お電話でのお問い合わせ
03-6273-0024
03-6273-0024
平日午前9時30分~午後6時00分
メールでのお問い合わせ
お問い合わせフォーム